東京フィルハーモニー交響楽団 第21回定期演奏会  東京オペラシティ コンサートホール


マーラー交響曲第二番 ハ短調 『復活』
 
指揮:ダニエル・ハーディング
 
ソプラノ:カミラ・ティリング
アルト:カタリーナ・カーネウス
合唱:東京オペラシンガーズ


とにかく、物凄い人気だった。ダニエル・ハーディング氏。
オケの通常定期公演で、ここまで熱気ムンムン状態の会場を、久し振りに経験した気がする。当然、満員御礼でチケットは完売。流石は、「今、世界で最も注目を浴びる、30歳の天才マエストロ」。


見ていると、聴衆の半数強は男性で、それも若い男性が多い。同年代に人気が著しく高いという事なのか。でも、誤解を避ける為に敢えて詳しく書くと、各年代層の男女が満遍無く来場していた。一番薄い年代層は、芝居とは真逆で、高齢女性。これについては、通常定期公演と変わらない。
それから外国人も多かった。名実共に備わっている演奏家・指揮者の場合に多い現象だ。


当初、私は、いつもの様にオーチャード定期に行く予定だった。そちらは別の指揮者だが、頓着は全然無かった。今月の定期公演では、二人の指揮者を比べて、ハーディング氏に振り替えた会員は多いだろうが、私の場合は、本当に日程の都合だった。それに、ハーディング氏は来年早々にも来日してこのオケを振る予定だったから、今、焦って聴く必要も感じていなかった。


しかし、数日前に東京フィルから届いたDMには、ハーディング氏はスカラ座から招集が掛かった為、先約だった複数のオケの要請を断る事になった、との事。その中には、東京フィルも含まれている。つまり、図らずも、今回聴かないと、次の予定は未定となった訳だ。ワタシ的には、かなりラッキーだったという事かな。


振り替えたので、今回の座席は会場に到着するまで判らないシステムなのだが、驚いた事に最前列だった。オケを聴くにはバランスが崩れる位置なので、好きじゃない席だけど、指揮者を観察するならまあまあかな。でも観難かったよ。


ステージに登場したハーディング氏は、ちょっと小柄なハンサムな白人男性で、金髪は軽い巻き毛。くせ毛なのだろうが、彼の魅力を増す効果を上げている。
指揮が始まって直ぐに、あれっ、と思った。指揮振りが何処かで観た事が有る、知っている人と似ている、と感じたからだ。それが直ぐに、大植英次氏だと気付いた。そう。本当に良く似ている。指揮の冒頭から最後までずっと歌っていたし。途中、力が入ったのか、声が少し大きくなったので、最前列の私にその歌声ははっきりと聴こえた。そして、指示を与える時の明快なジェスチャアも似ている。何より、全身から発するエネルギー量が膨大で、そのエネルギーの質と言うかパワーのボルテージも似ている。


曲が終了すると、盛大なブラヴォーが飛んだ。
一旦、下手袖に入ったハーディング氏が再び出て来た時。白い肌は高揚したピンク色に染まり、息を大きく一つ吐き出した様子は、まるで激闘の格闘技を今さっき終えたばかりの様にも観えた。あの動き方では、本当に格闘技並みのエネルギーを消耗したことだろう。


何回かのカーテンコールの後、オケも合唱団も捌けてしまったのに、客席は興奮覚めやらず、拍手をずっと続けていたら、ハープ演奏者だけが残ったステージに、ハーディング氏が再び登場。拍手に応えてくれたのだ。この姿にも大植氏がダブった。


終演後、ロビーでは、CD購入者を対象に、ハーディング氏のサイン会が行われた。
私は今すぐにCDを買う気持ちには成れず、かと言って、直ぐに帰る気持ちにも成れずに、只、ぼんやりと佇んでいた。
やがて、彼が現われた。黒縁の眼鏡に紺のジャケット姿。英国トラッド・ファッションの好青年は、舞台での指揮者姿よりずっと若く観えて、まるでギムナジウムに入っているお金持ちのお坊ちゃんみたいだった。と言うより、そのものだった。